はじめに|なぜ私は在宅介護を選んだのか
母は今、要介護5の状態で、ほぼ寝たきりの生活を送っています。
それでも、母自身は「施設に入ることは考えていない」ような口ぶりをします。
「できる限り家で、家族と一緒に暮らしたい」——その想いは、私たち姉妹もよく理解していました。
若い頃から母は、家庭と仕事の両立に奔走し、家族のためにたくさんのことを犠牲にしてきた人です。
つらそうな時期も、文句ひとつ言わずに乗り越えてきた姿を、私はずっと見てきました。
だからこそ、いま母が望む「自分の家で、家族のそばで暮らす」という気持ちを、できるだけ叶えてあげたいと思っています。
もちろん、在宅介護は決して楽なことではありません。
毎日の体力的・精神的な負担、費用、将来への不安——そのすべてと向き合いながらの生活です。
それでも、「今、この選択をしてよかった」と思える瞬間があるから、私は在宅介護を続けています。
この記事では、そんな私の在宅介護の理由、実際に感じているメリットとデメリットについて、正直な気持ちで綴っていきます。
これから在宅介護を始めようか迷っている方や、同じように悩みながら介護と向き合っている方のヒントになれば嬉しいです。
在宅介護を選んでよかったと思うこと(メリット)
在宅介護には、もちろん大変なこともたくさんあります。
それでも、「家で看ていてよかったな」と感じる瞬間があるのも事実です。
ここでは、私が実際に在宅介護をしていて感じたメリットを、いくつかご紹介します。
▶ 1. 母の表情が穏やかで、安心して過ごしている
やはり、自宅は母にとって一番落ち着く場所のようです。
慣れ親しんだ家の中で、家族の声や空気を感じながら過ごす毎日は、母にとってとても安心感があるように見えます。
デイサービスから帰ってきたときの表情や「ただいま」とつぶやく母の言葉に、私もホッとする気持ちになります。
入所施設では味わえない、家庭ならではの空気が、母の心を穏やかに保ってくれていると感じています。
▶ 2. 母の体調や気持ちの変化にすぐ気づける
一緒に暮らしているからこそ、ちょっとした体調の変化や、表情の違いにすぐ気づくことができます。
「今日は食欲がないな」「いつもより無口かも」など、毎日の小さな変化が、早めの対応につながっています。
病院やケアマネジャーさんに相談するときも、「ここ数日こうだった」と具体的に伝えられるので、スムーズに連携が取れるのも在宅ならではの良さだと感じます。

▶ 3. 家計の中で費用調整がしやすい
介護にはお金がかかるのは事実ですが、在宅介護の場合は使うサービスや用品を自分たちで調整できる分、ある程度家計のコントロールがしやすいと感じています。
たとえば、福祉用具は介護保険を利用してレンタルし、必要に応じて使い方を工夫したり、紙おむつも特売日にまとめて買ったりと、自分たちで工夫しながらやりくりしています。
施設の場合は毎月決まった額を支払う形になりますが、在宅なら「今月はデイサービスを1日増やす/減らす」「訪問看護を追加する」といった柔軟な調整ができるのもメリットの一つです。
▶ 4. 家族の絆をあらためて実感できた
在宅介護を通して、母との関係はもちろん、姉妹や子どもたちとの関係にも変化がありました。
高校生の子どもも、最初は戸惑いながらも、今では自然に「ただいま。おかえり」と声をかけてくれるようになり、介護が家族の中の会話や気づかいを育ててくれたと感じます。
私自身も、母を介護する中で「ありがとう」と「ごめんね」を大切にするようになりました。
介護を通じて、家族のつながりが深まったことは、何よりの財産だと思っています。
このように、在宅介護には確かに手間も時間もかかりますが、それ以上に得られる温かいものがあります。
「母がここにいてくれる」という毎日のありがたさを感じながら、今の暮らしを大切にしています。
在宅介護の大変さ・悩んでいること(デメリット)
在宅介護を選んだことに後悔はありませんが、正直に言えば「しんどいな…」と思う日もたくさんあります。
良いことばかりではない現実を受け入れながら、どうやって折り合いをつけていくか——それが今の私の課題でもあります。
ここでは、在宅介護の中で感じている主な悩みや大変さを、ありのままに書いてみたいと思います。
1. 肉体的・精神的にどうしても疲れてしまう
要介護5の母の介助は、1日中気が抜けません。
寝返りやおむつ交換、食事の介助、通院の付き添いなど、こまごまとした世話が絶え間なく続きます。
母のベッドには、私を呼ぶためのブザーを置いています。腰や足の痛みが強いときは、夜中に何度もブザーが鳴り、自分の睡眠が断続的に削られてしまう日々がありました。
起き上がって対応して、また布団に戻ってもすぐまた呼ばれる…そんな夜が続くと、だんだんと疲労がたまっていきます。
その頃は、ついイライラしてしまったり、「こんなことで怒ってしまって、ごめんね…」と自己嫌悪になったり。
「家族だから頑張りたい」という気持ちと、「少し休みたい…」という気持ちの間で、心が揺れ動くこともたくさんありました。
でも、少しずつ工夫することで状況は変わってきました。
今は医師の判断で痛み止めを服用するようになり、夜間の痛みが軽くなったことで、母は夜ぐっすり眠れるようになってきています。
だいたい20時半ごろに寝かせると、朝までブザーを押すことなく眠ってくれる日が増え、私自身の睡眠も取れるようになりました。
完璧にはできなくても、小さな工夫と改善の積み重ねで、介護の「しんどさ」が少しずつ和らいでいく。
そんな経験を通して、「できる範囲で、できる方法で介護すること」も大切だと実感しています。
2. 通院やサービスの調整に追われる
母は複数の診療科を定期的に受診しており、そのたびにタクシーの手配や付き添い、診察中の説明など、通院そのものが一仕事です。
さらに、デイサービスや訪問看護のスケジュールも、母の体調や事業所の都合によって変更が必要になることがあり、その調整に毎月頭を悩ませます。
ケアマネさんとの連絡、書類のやり取り、福祉用具の入れ替えなども、慣れるまでは本当に大変でした。
3. 介護の負担が一部の家族に偏りやすい
私たち姉妹で協力して介護していますが、どうしても日常的な世話は私が中心になってしまいがちです。
姉妹間で不満があるわけではないのですが、時折「私ばかり…」という気持ちがふと湧いてきます。
また、他の家族が介護に対して理解が足りなかったり、「そんなに大変なの?」と言われてしまったりすると、心が折れそうになることもあります。
「手伝って」と言えない自分、「一人でやらなきゃ」と思ってしまう自分——
そんな自分自身との向き合い方にも、まだまだ悩んでいます。
4. 先の見えない不安と孤独感
在宅介護は、いつまで続くかが分からないという不安があります。
先のことを考えようとしても、「今がいっぱいいっぱい」で、つい後回しにしてしまうこともしばしばです。
また、外出や人との交流の機会が減ることで、社会とのつながりが薄れていくような孤独感を感じることもあります。
特に夜、母が寝たあとにふと「これでいいんだろうか」「私、ちゃんとできてるのかな」と自問自答してしまうことがあります。
💬 ひとことメモ:
🌙「がんばりすぎなくていい」とよく言われるけれど、それが一番難しい…。
だから私は、誰かに話すこと、小さな息抜きを作ることを心がけています。完璧を目指さず、“まあまあ”でOKと思えるようになったら、少し楽になりました。私が母を看れない日が初めから分かっていると、姉妹に頼ったり、二人とも用事が入って無理な時は、ケアマネジャーさんに連絡を入れて、お泊まりのディサービスを予約してもらっています。
このように、在宅介護には大変なことがたくさんあります。
でも、「なぜこの選択をしたのか」「どんな想いで続けているのか」を忘れないようにしていると、少しずつ心が前を向いていくように感じています。
それでも私が在宅介護を続ける理由
在宅介護にはたしかにたくさんの苦労があります。
日々の介助に追われ、思うように休めなかったり、自分の時間がなくなってしまったり。
それでも私は、「母を家で看る」と決めた気持ちを、今も変わらず持ち続けています。
▶ 母の願いを、できるだけ尊重したい
「できる限り、家で家族と一緒に暮らしたい」
それが、母の一番の願いです。
施設の話を持ちかけたこともありましたが、母はきっぱりと「私はまだ行きたくない」と言いました。
それを聞いたとき、私は「母の気持ちを一番大事にしたい」と思いました。
若いころから家族のために働き続け、たくさんの苦労を乗り越えてきた母。
今度は、私たちが母を支える番だと、自然に思えたのです。
▶ 「育ててもらった恩」を今、少しずつ返している
私たち姉妹がこうして日々を過ごせているのも、母が懸命に育ててくれたからこそ。
その感謝の気持ちは、言葉にしきれないほどあります。
介護は一方的に「してあげるもの」ではなく、母と一緒に過ごせる貴重な時間でもあると感じています。
ゆっくり手を握ったり、昔の思い出を話したり、笑い合える時間は、私にとっても宝物です。
▶ 支えてくれる人たちがいるから続けられる
在宅介護はひとりではできません。
ケアマネジャーさん、デイサービスのスタッフさん、看護の方々、そして姉妹や子どもたち。
いろんな人が関わってくださるおかげで、私は毎日をまわしていくことができています。
特にケアマネさんとは、悩みも相談できる信頼関係ができていて、制度のことや生活の工夫など、たくさん助けてもらっています。
「みんなで支える介護」だと思えるようになったことで、少し肩の力を抜いて向き合えるようになってきました。
💬 ひとことメモ
🍀「今、できることを、できる形で」
そんなふうに自分に言い聞かせながら、焦らず一歩ずつ進んでいます。
まとめ|在宅介護には覚悟も必要。でも後悔しない選択だった
在宅介護は、決して楽な道ではありません。
毎日の介助、費用のやりくり、体力や心のバランス…。
何か一つでも崩れると、心が折れそうになる日もあります。
それでも私は、「母が家で過ごしたい」と願っている限り、その想いをできるだけ叶えたいと思っています。
介護を通して、母と過ごす時間は確かに増え、日々のふれあいの中で、私自身もたくさんのことを学んでいます。
もちろん、いつかは姉妹で相談しながら、施設という選択をする日が来るかもしれません。
でも、だからこそ「今、私たちにできること」を悔いなくやっておきたい。
そう思いながら、一日一日を大切に過ごしています。
母が笑ってくれる日もあれば、つらそうな日もあります。
そのすべてを受け止めながら、私たち家族なりの介護のかたちを、無理せず、でも丁寧に、続けていきたいと思っています。
この記事が、同じように在宅介護で悩んでいる方の、少しでも心の支えになりますように。
「私もそうだったよ」と言い合えるような、あたたかなつながりが生まれることを願っています。
💬 最後に:
🌷「できる範囲で、できる方法で。がんばりすぎず、あなたのペースで。」