「お金の話って、子どもにどこまでしていいんだろう?」
そんな疑問を持つ保護者さんは多いのではないでしょうか。
実際、学校では“お金の稼ぎ方”や“使い方”の話は深く教えてもらえません。
そして家庭でも「お金のことを子どもに話すのは早いかも…」と、つい避けてしまいがちです。
けれど、子どもが将来お金に困らず、自分らしく生きていくためには、
「お金=ありがとうの循環」という考え方を小さいうちから少しずつ伝えることが大切です。
これは、「働く → 誰かの役に立つ → お金をもらう → また誰かのために使う」という、人と人とのつながりを学ぶ視点でもあります。
日常の中にあるヒントをもとに、子どもと一緒に「お金ってなに?」をやさしく、あたたかく伝えていきませんか?
今回は、元教師である私自身が家庭で意識している“お金の伝え方”を、
日常の工夫や声かけとともにご紹介します。
「お金って、誰かを笑顔にできるもの」と思ってもらえるヒントになれば幸いです。
1. なぜ今、お金の教育が必要なの?
かつては「お金の話は子どもの前でしない方がいい」と言われることもありました。でも今の時代、お金の知識は“生きる力”の一つ。避けるよりも、早いうちから自然に身につけさせていくことが大切になっています。
キャッシュレス社会で「お金の実感」が薄れている
お財布の中に入ったお札や小銭のやりとりは、子どもにとって「見える学び」でした。しかし最近は、スマホ一つで決済できる時代。親の手元に“現金が減る感覚”が見えないまま、買い物が済んでしまうため、お金の流れが実感しづらくなっています。
その結果、子どもは「お金ってどこから出てくるの?」「なんでこんなに何でも買えるの?」と、感覚だけで覚えてしまう危険性があります。
学校では学べない「お金の使い方」
現在の日本の小・中学校では、「お金の使い方」や「価値との関係性」などの授業はあまり行われていません。
高等学校の家庭科で少し学ぶ機会はあるものの、それだけでは足りません。特に、「お金をどう稼ぐか」「どう管理するか」「どんなふうに感謝と関係しているか」といった“心の軸”の部分は、やはり小さい頃から家庭の影響が大きいのです。
SNSや課金文化の影響も大きい
子どもたちは早い段階からスマホやタブレットに触れる時代。
YouTubeで広告に触れたり、ゲームアプリで課金を目にする機会も増えています。
うまく使えば便利ですが、「なんとなくで使ってしまう」状態では、金銭感覚が偏ってしまう可能性も。
だからこそ今、「お金=感謝の循環」という温かい考え方を、家庭で伝えていくことがとても意味を持つのです。

2. 子どもに伝えたい「お金=感謝の循環」という考え方

「お金は使えばなくなるもの」「たくさん持っている人がすごい」
そんな風に思いがちな子どもたちにこそ、伝えていきたいのが
「お金は感謝の気持ちが形になって巡っている」という視点です。
お金は「ありがとう」が形になったもの
たとえば、パン屋さんで100円のパンを買うとします。
100円払うことで「おいしいパンを作ってくれてありがとう」という気持ちを伝えられます。
そしてパン屋さんはその100円を使って、小麦粉を仕入れたり、光熱費を払ったりします。
お金はそこで止まらず、また次の「ありがとう」に使われていくのです。
この循環こそが「経済」であり、「人とのつながり」そのもの。
つまり、お金は人の役に立ったことの証拠とも言えるのです。
「払う=失う」ではなく「ありがとうを返す」行為
大人でもつい、「またお金が減っちゃった」「高くてイヤになる」と言ってしまうことがありますよね。
でも子どもには、「払うこと」はただ減ることではなく、
感謝を誰かに返す素敵な行為なんだと伝えていきたいもの。
たとえばレジで「ありがとう」と言ってお金を払う姿を見せるだけでも、
子どもはそれを感じ取ります。
お金のやりとりは、無言のままでも、ちゃんと気持ちが込められる“ありがとうの言葉”なのです。
小さなやりとりにも「気持ち」を乗せて
おこづかいをもらった時、「何に使う?」だけでなく
「どうしておこづかいがもらえるんだろう?」と問いかけてみてください。
・家の手伝いを頑張ってくれたから
・自分で使い道を考えてほしいから
・大事に使う力を育ててほしいから
このようなやり取りを通して、「お金=感謝と信頼のあらわれ」と実感できるようになります。
3. 家庭でできる実践アイデア

「お金は感謝の循環」──
この考え方を子どもに伝えるには、日常の小さな体験が一番の教材になります。
ここでは、家庭でできる3つの実践アイデアをご紹介します。
① おこづかいの渡し方にひと工夫
ただ「毎月〇円あげる」ではなく、お金の意味や背景も一緒に伝えることで、学びになります。
おすすめの渡し方アイデア:
- 労働対価型:「ゴミ出し」「洗濯物たたみ」などに応じて報酬制
- 基本給+ボーナス型:「毎月300円+手伝い1回につき50円」など
- ミッション制:「今月のチャレンジ(例:毎日あいさつ・新聞を1日読む)」を達成したら支給
子どもは、自分が頑張ったことと「お金」が結びつくことで、「価値を生み出すとはどういうことか」を体験できます。

② 一緒に「買い物メモ」作りから始めよう
スーパーや100円ショップに行く前に、子どもと買い物メモを一緒に作ることも立派な金銭教育です。
- 必要なものと欲しいものを分けて書いてみる
- 合計金額を予想してみる
- お釣りはいくらになるか計算してみる
メモを見ながら買い物をすることで、「計画して使う」感覚が自然と身につきます。
「今日はこれに300円使うけど、来週のおでかけのために200円はとっておく」──
そんな選択ができる子に育っていくはずです。
③ 小さな「ありがとう貯金」をはじめよう
「ありがとう貯金箱」は、文字通り感謝の気持ちを入れる場所。
「うれしかったこと」「がんばったこと」「助けてもらったこと」など、
感謝の言葉を書いたメモと一緒に、お金やシール、小さなおもちゃなどを入れてもいいですね。
- 「ありがとう」と一緒にお金を使う
- もらったお金にも「ありがとう」と感じる
そんな気持ちが育てば、自然と「お金=感謝の循環」という考え方が、心に残っていきます。
4. 親が無意識に伝えてしまう“マイナスお金ワード”に注意
子どもにとって、お金に対する最初の価値観は親の口ぐせから始まります。
良かれと思って言ったひと言が、知らず知らずのうちに
「お金=怖いもの、足りないもの、悪いもの」という印象を植えつけてしまうことも…。
つい言ってしまいがちな“マイナスお金ワード”
- 「うちはお金がないからダメ」
- 「こんなに高いなんて信じられない」
- 「お金がもったいないから我慢して」
- 「そんなのにお金使うなんて無駄!」
どれも日常の中で出てきやすい言葉ですが、
繰り返されると、子どもの中に
「お金を使う=悪いこと」「欲しいと思う=いけないこと」
というネガティブな感情が芽生えてしまいます。
気持ちはそのまま、言い換えの工夫を
子育て中の出費、特にコンビニや外食などで思わぬ金額になることもありますよね。
でも、たとえばこんなふうに言い換えてみると印象は大きく変わります。
言い換え例:
- 「うちはお金がないから」→「今は他に使いたいことがあるから、今回はやめようか」
- 「高いなあ」→「これはちょっとごほうび価格だね。でもその分おいしそう!」
- 「無駄遣いしないで!」→「それ、本当に使いたい?長く使えそう?」
5. 最後に伝えたいこと
お金の教育というと、「計算力」や「節約術」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
でも本当に大切なのは、お金を通じて「人とのつながり」や「自分の生き方」を考えられる力です。
「お金=感謝の循環」という考え方を伝えることは、
単に経済感覚を育てることではなく、豊かな心を育てることにもつながります。
● お金は目的ではなく、手段
たくさん持っている=幸せ、ではありません。
どんなふうに稼ぎ、どう使い、何を大切にして生きていくのか。
お金は、その人の価値観を映す鏡でもあります。
だからこそ子どもには、ただ「お金は大事」と言うだけではなく、
「どうしてそれを大事にするのか」を、日常の中でゆっくり伝えていきたいですね。
● 「誰かの役に立つとお金がもらえる」という基本を
家の手伝いでも、近所のゴミ拾いでも、
「ありがとう」と言われたときのうれしさを感じること。
そして、それが“ありがとうの形=お金”になる体験があれば、
きっと将来も、人のために力を使える大人に育ってくれるはずです。
● 教えるのではなく、一緒に育つ
お金の教育は、正解がひとつではありません。
「親も迷いながら学んでいる」と伝えることも、立派な教育です。
「今日はちょっと使いすぎちゃったな〜。でも時間ができて助かったね」
「お金って、我慢するだけじゃなくて、喜びにもつながるね」
そんな何気ないひと言が、子どもにとって一生ものの“金銭哲学”になるかもしれません。
📝 まとめ|お金は「ありがとう」が巡るもの。家庭だからこそ伝えられる金銭教育
お金は、ただ貯めるだけでも、使うだけでもなく、
「ありがとう」の気持ちを形にして、また誰かの元へと巡っていく。
そんな「感謝の循環」という考え方を、家庭の中で少しずつ伝えていけたら――
それは子どもにとって、人生を支える“お金とのいい関係”の土台になります。
- お金は手段であって目的ではないこと
- 人の役に立つとお金がもらえること
- 無駄遣いを責めるのではなく「どう使うか」を一緒に考えること
これらを“押しつけずに”自然に伝えるには、やはり家庭の対話と日常の工夫がカギになります。
✍️ 筆者の体験から
実は私自身、小さいころはお金に余裕のない家庭で育ちました。
ほしいものを我慢することも多く、「お金がない」と聞くのが日常でした。
それでも、その中で笑ったり、工夫して過ごしたりして、楽しい思い出はたくさんあります。
今は自分で働いて、子どもに不自由ない環境を与えられるようになりました。
正直に言えば、お金があることで「選択の自由」や「心のゆとり」が生まれることも感じています。
たまにはコンビニでお弁当を買うことも、「時間を買う」「子どもが自分で選ぶ喜びを感じる」
という意味では、お金を使うことで豊かになる場面だと今では思えるようになりました。
「お金だけがすべてじゃない」と知っているからこそ、
子どもにも、「お金は感謝と工夫と自由を運んできてくれる大切な道具」として伝えていきたい。
そんな思いを込めて、今回の記事を書きました。
