デイサービスでの転倒と再びの入院
それから数年後、母は通い慣れたデイサービスで転倒し、大腿骨を骨折してしまいました。再びの入院が決まり、家族としてはとてもショックでした。
しかもその時期は、ちょうど新型コロナウイルスが猛威をふるっていた頃。病院では面会が制限されており、母に会うことができず、不安な日々が続きました。どんな表情で過ごしているのか、どこか痛がっていないか──気にかかることばかり。
そんな中で支えになったのは、看護師さんやリハビリスタッフの方々の存在でした。電話越しに状況を伝えてくださったり、母に優しく声をかけてくださっている様子を聞くたびに、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。

退院後、要介護度の変化と新しい支援体制
退院後、母の要介護認定は「要支援2」から「要介護1」へと変わりました。
その結果、利用できる介護サービスの範囲も広がり、デイサービスの回数を増やすことができるようになりました。母本人の希望を尊重しながら、ケアマネージャーさんと相談を重ね、2か所のデイサービスに通うというスタイルを取り入れることに。
一つはリハビリに特化した施設。もう一つは、民家を活用して運営されている、家庭的で温かみのある雰囲気の施設でした。
過去の経験が生きた、手作業のリハビリ
リハビリ専門のディサービスでは足を使って自転車をこいだり、数字を書く練習、脳トレ、食事の時に左手で、箸で食べるの練習をしていただきました。
家庭的なデイサービスでは、スタッフの方の配慮もあり、母がかつて得意としていた「手仕事」をリハビリの一環として取り入れていただくことができました。
右半身が麻痺している母は、左手一本で懸命に作品づくりに取り組んでいました。時には料理の手伝いも行いました。
折り紙で花を折ったり、毛糸で簡単な編み物をしたり。若い頃に覚えた技術や指の感覚を思い出しながら、静かにでも集中して一つひとつの作業を仕上げていく姿には、見ている私の方が勇気をもらうようでした。
できあがった作品は、私に持ち帰らせてくれ、母にとっても「自分にできることがある」という自信に繋がっていたように思います。


真冬の深夜、2度目の脳梗塞
季節は12月。寒さが一段と厳しくなったある日、母の様子に少し違和感がありました。朝からなんとなく元気がなく、食欲も少し落ちているような気がしたのです。
「寒いから疲れてるのかな」
そんなふうに思っていましたが、夜になって突然、母がこう言いました。
「足がふらついて立てない気がするのよ」
驚いてすぐ、相談窓口に電話。状況を伝えると、すぐに「救急車を呼んでください」と言われました。夜中の静まり返った住宅街に、サイレンの音が響く中、母を乗せて病院へ向かいました。
今度は左側に…恐怖がよぎる
検査の結果、2度目の脳梗塞であることがわかりました。
しかも、今回は右脳の血管に異常が見られるという診断。
「今度は右側だけでなく、左側も麻痺してしまうかもしれない…」
そんな最悪のシナリオが頭をよぎり、不安でたまりませんでした。
でも、幸いなことに今回は比較的小さな血管の詰まりだったようで、リハビリをしたおかげで大きな後遺症は残らず、すでに麻痺していた右半身への影響も最小限で済みました。
本当に、胸をなで下ろす思いでした。
要介護5に
入退院を繰り返す中で、やはり足腰の衰えは避けられませんでした。
気づけば、母は自力で起き上がることも難しくなり、トイレや着替えにもすべて介助が必要な状態に。
そして現在、要介護5。
ほとんど自力でできることはなくなりましたが、それでも週5回のデイサービスと、必要に応じたショートステイを利用しながら、自宅での生活を続けています。
リハビリや入浴支援、介護スタッフの温かい声かけに支えられ、母は今も“その人らしさ”を大切にしながら日々を過ごしています。
私も、子育てと介護のダブルケアという大きな課題に向き合いながら、少しずつ「人に頼ること」「無理をしないこと」「感謝を伝えること」の大切さを学んでいます。
「いつもの母」でいてくれることの尊さ

2度目の脳梗塞を経て、あらためて思ったことがあります。
それは、「今ある当たり前」は、決して当たり前じゃないということ。
朝、笑って「おはよう」と言ってくれる。
好きなテレビ番組を見て、一緒に笑ってくれる。
「ごはん、美味しかったよ」と言ってくれる。
そんな日常が、とても貴重で、かけがえのない時間であることを、改めて深く実感しました。
介護をしながら 気づいたこと
① 「知識」は家族を守る。学ぶことは愛情
あの時、脳梗塞の初期症状(口のゆがみ、片側の麻痺など)を知っていたら――
もっと早く病院へ連れていけたかもしれない。
それから私は、介護のこと、制度のこと、医療のこと、
できる限り**「知る努力」**をするようになりました。
「知っている」だけで、選択肢が増えます。
「知っている」だけで、守れる命や時間がある。
それを母から教えられました。
② 「頑張らない介護」が、いちばん続けられる
・プロに頼る(訪問介護、ケアマネ、デイ)
・便利な介護用品を使う
・家族や友人に甘える
そうすることで、私自身の笑顔や健康も取り戻せました。
介護する人が倒れてしまっては、本末転倒ですよね。
③ 「ありがとう」と「ごめんね」を言える今が、宝物
最初は「全部自分でやらなきゃ」と思っていました。幸いにも私には姉妹がいたので、不安を共有し、協力しながら進めていけたのは良かったです。
介護を長く続けていくためには、「完璧を手放すこと」も必要です。
ある日、母がぽつりとこう言いました。
「迷惑ばかりかけてごめんね」
「でも、あなたがいてくれて幸せだよ」介護って、「お互いに愛情を再確認する時間」でもあるんだと気づきました。
忙しい毎日の中で、
「ありがとう」も「ごめんね」も、なかなか言えないことがあります。
でも、そういう言葉を交わせる今こそが、私たちにとっての宝物なのだと思います。
■ 最後に:同じように頑張っているあなたへ

介護は、体も心も削られるような日々が続きます。
誰にも言えない不安や疲れを抱え込んでいる方も多いと思います。
でも、あなたの介護には「意味」があります。
あなたの存在が、誰かを救っているかもしれません。
もし今、しんどいなと思ったら――
どうか、誰かに頼ってください。
そして、自分自身のことも、大切にしてください。
私の経験が、どこかで誰かの心をそっと支えるきっかけになれば幸いです。